万葉集の第6巻を一覧にまとめました。
万葉集の第6巻一覧
907 | 瀧の上の三船の山に瑞枝さし繁に生ひたる栂の木のいや継ぎ継ぎに万代にかくし知らさむみ吉野の秋津の宮は神からか貴くあるらむ国からか見が欲しからむ山川を清みさやけみうべし神代ゆ定めけらしも |
908 | 年のはにかくも見てしかみ吉野の清き河内のたぎつ白波 |
909 | 山高み白木綿花におちたぎつ瀧の河内は見れど飽かぬかも |
910 | 神からか見が欲しからむみ吉野の滝の河内は見れど飽かぬかも |
911 | み吉野の秋津の川の万代に絶ゆることなくまたかへり見む |
912 | 泊瀬女の造る木綿花み吉野の滝の水沫に咲きにけらずや |
913 | 味凝りあやにともしく鳴る神の音のみ聞きしみ吉野の真木立つ山ゆ見下ろせば川の瀬ごとに明け来れば朝霧立ち夕さればかはづ鳴くなへ紐解かぬ旅にしあれば我のみして清き川原を見らくし惜しも |
914 | 滝の上の三船の山は畏けど思ひ忘るる時も日もなし |
915 | 千鳥泣くみ吉野川の川音のやむ時なしに思ほゆる君 |
916 | あかねさす日並べなくに我が恋は吉野の川の霧に立ちつつ |
917 | やすみしし我ご大君の常宮と仕へ奉れる雑賀野ゆそがひに見ゆる沖つ島清き渚に風吹けば白波騒き潮干れば玉藻刈りつつ神代よりしかぞ貴き玉津島山 |
918 | 沖つ島荒礒の玉藻潮干満ちい隠りゆかば思ほえむかも |
919 | 若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る |
920 | あしひきのみ山もさやに落ちたぎつ吉野の川の川の瀬の清きを見れば上辺には千鳥しば鳴く下辺にはかはづ妻呼ぶももしきの大宮人もをちこちに繁にしあれば見るごとにあやに乏しみ玉葛絶ゆることなく万代にかくしもがもと天地の神をぞ祈る畏くあれども |
921 | 万代に見とも飽かめやみ吉野のたぎつ河内の大宮所 |
922 | 皆人の命も我れもみ吉野の滝の常磐の常ならぬかも |
923 | やすみしし我ご大君の高知らす吉野の宮はたたなづく青垣隠り川なみの清き河内ぞ春へは花咲きををり秋されば霧立ちわたるその山のいやしくしくにこの川の絶ゆることなくももしきの大宮人は常に通はむ |
924 | み吉野の象山の際の木末にはここだも騒く鳥の声かも |
925 | ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く |
926 | やすみしし我ご大君はみ吉野の秋津の小野の野の上には跡見据ゑ置きてみ山には射目立て渡し朝狩に獣踏み起し夕狩に鳥踏み立て馬並めて御狩ぞ立たす春の茂野に |
927 | あしひきの山にも野にも御狩人さつ矢手挾み騒きてあり見ゆ |
928 | おしてる難波の国は葦垣の古りにし里と人皆の思ひやすみてつれもなくありし間に続麻なす長柄の宮に真木柱太高敷きて食す国を治めたまへば沖つ鳥味経の原にもののふの八十伴の男は廬りして都成したり旅にはあれども |
929 | 荒野らに里はあれども大君の敷きます時は都となりぬ |
930 | 海人娘女棚なし小舟漕ぎ出らし旅の宿りに楫の音聞こゆ |
931 | 鯨魚取り浜辺を清みうち靡き生ふる玉藻に朝なぎに千重波寄せ夕なぎに五百重波寄す辺つ波のいやしくしくに月に異に日に日に見とも今のみに飽き足らめやも白波のい咲き廻れる住吉の浜 |
932 | 白波の千重に来寄する住吉の岸の埴生ににほひて行かな |
933 | 天地の遠きがごとく日月の長きがごとくおしてる難波の宮に我ご大君国知らすらし御食つ国日の御調と淡路の野島の海人の海の底沖つ海石に鰒玉さはに潜き出舟並めて仕へ奉るし貴し見れば |
934 | 朝なぎに楫の音聞こゆ御食つ国野島の海人の舟にしあるらし |
935 | 名寸隅の舟瀬ゆ見ゆる淡路島松帆の浦に朝なぎに玉藻刈りつつ夕なぎに藻塩焼きつつ海人娘女ありとは聞けど見に行かむよしのなければますらをの心はなしに手弱女の思ひたわみてたもとほり我れはぞ恋ふる舟楫をなみ |
936 | 玉藻刈る海人娘子ども見に行かむ舟楫もがも波高くとも |
937 | 行き廻り見とも飽かめや名寸隅の舟瀬の浜にしきる白波 |
938 | やすみしし我が大君の神ながら高知らせる印南野の大海の原の荒栲の藤井の浦に鮪釣ると海人舟騒き塩焼くと人ぞさはにある浦をよみうべも釣りはす浜をよみうべも塩焼くあり通ひ見さくもしるし清き白浜 |
939 | 沖つ波辺波静けみ漁りすと藤江の浦に舟ぞ騒ける |
940 | 印南野の浅茅押しなべさ寝る夜の日長くしあれば家し偲はゆ |
941 | 明石潟潮干の道を明日よりは下笑ましけむ家近づけば |
942 | あぢさはふ妹が目離れて敷栲の枕もまかず桜皮巻き作れる船に真楫貫き我が漕ぎ来れば淡路の野島も過ぎ印南嬬辛荷の島の島の際ゆ我家を見れば青山のそことも見えず白雲も千重になり来ぬ漕ぎ廻むる浦のことごと行き隠る島の崎々隈も置かず思ひぞ我が来る旅の日長み |
943 | 玉藻刈る唐荷の島に島廻する鵜にしもあれや家思はずあらむ |
944 | 島隠り我が漕ぎ来れば羨しかも大和へ上るま熊野の船 |
945 | 風吹けば波か立たむとさもらひに都太の細江に浦隠り居り |
946 | 御食向ふ淡路の島に直向ふ敏馬の浦の沖辺には深海松採り浦廻にはなのりそ刈る深海松の見まく欲しけどなのりそのおのが名惜しみ間使も遣らずて我れは生けりともなし |
947 | 須磨の海女の塩焼き衣の慣れなばか一日も君を忘れて思はむ |
948 | ま葛延ふ春日の山はうち靡く春さりゆくと山の上に霞たなびく高円に鴬鳴きぬもののふの八十伴の男は雁が音の来継ぐこの頃かく継ぎて常にありせば友並めて遊ばむものを馬並めて行かまし里を待ちかてに我がする春をかけまくもあやに畏し言はまくもゆゆしくあらむとあらかじめかねて知りせば千鳥鳴くその佐保川に岩に生ふる菅の根採りて偲ふ草祓へてましを行く水にみそぎてましを大君の命畏みももしきの大宮人の玉桙の道にも出でず恋ふるこの頃 |
949 | 梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に遊びしことを宮もとどろに |
950 | 大君の境ひたまふと山守据ゑ守るといふ山に入らずはやまじ |
951 | 見わたせば近きものから岩隠りかがよふ玉を取らずはやまじ |
952 | 韓衣着奈良の里の嶋松に玉をし付けむよき人もがも |
953 | さを鹿の鳴くなる山を越え行かむ日だにや君がはた逢はざらむ |
954 | 朝は海辺にあさりし夕されば大和へ越ゆる雁し羨しも |
955 | さす竹の大宮人の家と住む佐保の山をば思ふやも君 |
956 | やすみしし我が大君の食す国は大和もここも同じとぞ思ふ |
957 | いざ子ども香椎の潟に白栲の袖さへ濡れて朝菜摘みてむ |
958 | 時つ風吹くべくなりぬ香椎潟潮干の浦に玉藻刈りてな |
959 | 行き帰り常に我が見し香椎潟明日ゆ後には見むよしもなし |
960 | 隼人の瀬戸の巌も鮎走る吉野の瀧になほしかずけり |
961 | 湯の原に鳴く葦鶴は我がごとく妹に恋ふれや時わかず鳴く |
962 | 奥山の岩に苔生し畏くも問ひたまふかも思ひあへなくに |
963 | 大汝少彦名の神こそば名付けそめけめ名のみを名児山と負ひて我が恋の千重の一重も慰めなくに |
964 | 我が背子に恋ふれば苦し暇あらば拾ひて行かむ恋忘貝 |
965 | おほならばかもかもせむを畏みと振りたき袖を忍びてあるかも |
966 | 大和道は雲隠りたりしかれども我が振る袖をなめしと思ふな |
967 | 大和道の吉備の児島を過ぎて行かば筑紫の児島思ほえむかも |
968 | ますらをと思へる我れや水茎の水城の上に涙拭はむ |
969 | しましくも行きて見てしか神なびの淵はあせにて瀬にかなるらむ |
970 | 指進の栗栖の小野の萩の花散らむ時にし行きて手向けむ |
971 | 白雲の龍田の山の露霜に色づく時にうち越えて旅行く君は五百重山い行きさくみ敵守る筑紫に至り山のそき野のそき見よと伴の部を班ち遣はし山彦の答へむ極みたにぐくのさ渡る極み国形を見したまひて冬こもり春さりゆかば飛ぶ鳥の早く来まさね龍田道の岡辺の道に丹つつじのにほはむ時の桜花咲きなむ時に山たづの迎へ参ゐ出む君が来まさば |
972 | 千万の軍なりとも言挙げせず取りて来ぬべき男とぞ思ふ |
973 | 食す国の遠の朝廷に汝らがかく罷りなば平けく我れは遊ばむ手抱きて我れはいまさむ天皇我れうづの御手もちかき撫でぞねぎたまふうち撫でぞねぎたまふ帰り来む日相飲まむ酒ぞこの豊御酒は |
974 | 大夫の行くといふ道ぞおほろかに思ひて行くな大夫の伴 |
975 | かくしつつあらくをよみぞたまきはる短き命を長く欲りする |
976 | 難波潟潮干のなごりよく見てむ家なる妹が待ち問はむため |
977 | 直越のこの道にしておしてるや難波の海と名付けけらしも |
978 | 士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして |
979 | 我が背子が着る衣薄し佐保風はいたくな吹きそ家に至るまで |
980 | 雨隠り御笠の山を高みかも月の出で来ぬ夜はくたちつつ |
981 | 狩高の高円山を高みかも出で来る月の遅く照るらむ |
982 | ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月夜の見れば悲しさ |
983 | 山の端のささら愛壮士天の原門渡る光見らくしよしも |
984 | 雲隠り去方をなみと我が恋ふる月をや君が見まく欲りする |
985 | 天にます月読壮士賄はせむ今夜の長さ五百夜継ぎこそ |
986 | はしきやし間近き里の君来むとおほのびにかも月の照りたる |
987 | 待ちかてに我がする月は妹が着る御笠の山に隠りてありけり |
988 | 春草は後はうつろふ巌なす常盤にいませ貴き我が君 |
989 | 焼太刀のかど打ち放ち大夫の寿く豊御酒に我れ酔ひにけり |
990 | 茂岡に神さび立ちて栄えたる千代松の木の年の知らなく |
991 | 石走りたぎち流るる泊瀬川絶ゆることなくまたも来て見む |
992 | 故郷の飛鳥はあれどあをによし奈良の明日香を見らくしよしも |
993 | 月立ちてただ三日月の眉根掻き日長く恋ひし君に逢へるかも |
994 | 振り放けて三日月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも |
995 | かくしつつ遊び飲みこそ草木すら春は咲きつつ秋は散りゆく |
996 | 御民我れ生ける験あり天地の栄ゆる時にあへらく思へば |
997 | 住吉の粉浜のしじみ開けもみず隠りてのみや恋ひわたりなむ |
998 | 眉のごと雲居に見ゆる阿波の山懸けて漕ぐ舟泊り知らずも |
999 | 茅渟廻より雨ぞ降り来る四極の海人綱手干したり濡れもあへむかも |
1000 | 子らしあらばふたり聞かむを沖つ洲に鳴くなる鶴の暁の声 |
1001 | 大夫は御狩に立たし娘子らは赤裳裾引く清き浜びを |
1002 | 馬の歩み抑へ留めよ住吉の岸の埴生ににほひて行かむ |
1003 | 海女娘子玉求むらし沖つ波畏き海に舟出せり見ゆ |
1004 | 思ほえず来ましし君を佐保川のかはづ聞かせず帰しつるかも |
1005 | やすみしし我が大君の見したまふ吉野の宮は山高み雲ぞたなびく川早み瀬の音ぞ清き神さびて見れば貴くよろしなへ見ればさやけしこの山の尽きばのみこそこの川の絶えばのみこそももしきの大宮所やむ時もあらめ |
1006 | 神代より吉野の宮にあり通ひ高知らせるは山川をよみ |
1007 | 言問はぬ木すら妹と兄とありといふをただ独り子にあるが苦しさ |
1008 | 山の端にいさよふ月の出でむかと我が待つ君が夜はくたちつつ |
1009 | 橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木 |
1010 | 奥山の真木の葉しのぎ降る雪の降りは増すとも地に落ちめやも |
1011 | 我が宿の梅咲きたりと告げ遣らば来と言ふに似たり散りぬともよし |
1012 | 春さればををりにををり鴬の鳴く我が山斎ぞやまず通はせ |
1013 | あらかじめ君来まさむと知らませば門に宿にも玉敷かましを |
1014 | 一昨日も昨日も今日も見つれども明日さへ見まく欲しき君かも |
1015 | 玉敷きて待たましよりはたけそかに来る今夜し楽しく思ほゆ |
1016 | 海原の遠き渡りを風流士の遊ぶを見むとなづさひぞ来し |
1017 | 木綿畳手向けの山を今日越えていづれの野辺に廬りせむ我れ |
1018 | 白玉は人に知らえず知らずともよし知らずとも我れし知れらば知らずともよし |
1019 | 石上布留の命は手弱女の惑ひによりて馬じもの縄取り付け獣じもの弓矢囲みて大君の命畏み天離る鄙辺に罷る古衣真土の山ゆ帰り来ぬかも |
1020,1021 | 大君の命畏みさし並ぶ国に出でますはしきやし我が背の君をかけまくもゆゆし畏し住吉の現人神船舳にうしはきたまひ着きたまはむ島の崎々寄りたまはむ磯の崎々荒き波風にあはせず障みなく病あらせず速けく帰したまはねもとの国辺に |
1022 | 父君に我れは愛子ぞ母刀自に我れは愛子ぞ参ゐ上る八十氏人の手向けする畏の坂に幣奉り我れはぞ追へる遠き土佐道を |
1023 | 大崎の神の小浜は狭けども百舟人も過ぐと言はなくに |
1024 | 長門なる沖つ借島奥まへて我が思ふ君は千年にもがも |
1025 | 奥まへて我れを思へる我が背子は千年五百年ありこせぬかも |
1026 | ももしきの大宮人は今日もかも暇をなみと里に出でずあらむ |
1027 | 橘の本に道踏む八衢に物をぞ思ふ人に知らえず |
1028 | ますらをの高円山に迫めたれば里に下り来るむざさびぞこれ |
1029 | 河口の野辺に廬りて夜の経れば妹が手本し思ほゆるかも |
1030 | 妹に恋ひ吾の松原見わたせば潮干の潟に鶴鳴き渡る |
1031 | 後れにし人を思はく思泥の崎木綿取り垂でて幸くとぞ思ふ |
1032 | 大君の行幸のまにま我妹子が手枕まかず月ぞ経にける |
1033 | 御食つ国志摩の海人ならしま熊野の小舟に乗りて沖へ漕ぐ見ゆ |
1034 | いにしへゆ人の言ひ来る老人の変若つといふ水ぞ名に負ふ瀧の瀬 |
1035 | 田跡川の瀧を清みかいにしへゆ宮仕へけむ多芸の野の上に |
1036 | 関なくは帰りにだにもうち行きて妹が手枕まきて寝ましを |
1037 | 今造る久迩の都は山川のさやけき見ればうべ知らすらし |
1038 | 故郷は遠くもあらず一重山越ゆるがからに思ひぞ我がせし |
1039 | 我が背子とふたりし居らば山高み里には月は照らずともよし |
1040 | ひさかたの雨は降りしけ思ふ子がやどに今夜は明かして行かむ |
1041 | 我がやどの君松の木に降る雪の行きには行かじ待にし待たむ |
1042 | 一つ松幾代か経ぬる吹く風の音の清きは年深みかも |
1043 | たまきはる命は知らず松が枝を結ぶ心は長くとぞ思ふ |
1044 | 紅に深く染みにし心かも奈良の都に年の経ぬべき |
1045 | 世間を常なきものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば |
1046 | 岩綱のまた変若ちかへりあをによし奈良の都をまたも見むかも |
1047 | やすみしし我が大君の高敷かす大和の国はすめろきの神の御代より敷きませる国にしあれば生れまさむ御子の継ぎ継ぎ天の下知らしまさむと八百万千年を兼ねて定めけむ奈良の都はかぎろひの春にしなれば春日山御笠の野辺に桜花木の暗隠り貌鳥は間なくしば鳴く露霜の秋さり来れば生駒山飛火が岳に萩の枝をしがらみ散らしさを鹿は妻呼び響む山見れば山も見が欲し里見れば里も住みよしもののふの八十伴の男のうちはへて思へりしくは天地の寄り合ひの極み万代に栄えゆかむと思へりし大宮すらを頼めりし奈良の都を新代のことにしあれば大君の引きのまにまに春花のうつろひ変り群鳥の朝立ち行けばさす竹の大宮人の踏み平し通ひし道は馬も行かず人も行かねば荒れにけるかも |
1048 | たち変り古き都となりぬれば道の芝草長く生ひにけり |
1049 | なつきにし奈良の都の荒れゆけば出で立つごとに嘆きし増さる |
1050 | 現つ神我が大君の天の下八島の内に国はしもさはにあれども里はしもさはにあれども山なみのよろしき国と川なみのたち合ふ里と山背の鹿背山の際に宮柱太敷きまつり高知らす布当の宮は川近み瀬の音ぞ清き山近み鳥が音響む秋されば山もとどろにさを鹿は妻呼び響め春されば岡辺も繁に巌には花咲きををりあなあはれ布当の原いと貴大宮所うべしこそ吾が大君は君ながら聞かしたまひてさす竹の大宮ここと定めけらしも |
1051 | 三香の原布当の野辺を清みこそ大宮所一云ここと標刺し定めけらしも |
1052 | 山高く川の瀬清し百代まで神しみゆかむ大宮所 |
1053 | 吾が大君神の命の高知らす布当の宮は百木盛り山は木高し落ちたぎつ瀬の音も清し鴬の来鳴く春へは巌には山下光り錦なす花咲きををりさを鹿の妻呼ぶ秋は天霧らふしぐれをいたみさ丹つらふ黄葉散りつつ八千年に生れ付かしつつ天の下知らしめさむと百代にも変るましじき大宮所 |
1054 | 泉川行く瀬の水の絶えばこそ大宮所移ろひ行かめ |
1055 | 布当山山なみ見れば百代にも変るましじき大宮所 |
1056 | 娘子らが続麻懸くといふ鹿背の山時しゆければ都となりぬ |
1057 | 鹿背の山木立を茂み朝さらず来鳴き響もす鴬の声 |
1058 | 狛山に鳴く霍公鳥泉川渡りを遠みここに通はず一云渡り遠みか通はずあるらむ |
1059 | 三香の原久迩の都は山高み川の瀬清み住みよしと人は言へどもありよしと我れは思へど古りにし里にしあれば国見れど人も通はず里見れば家も荒れたりはしけやしかくありけるかみもろつく鹿背山の際に咲く花の色めづらしく百鳥の声なつかしくありが欲し住みよき里の荒るらく惜しも |
1060 | 三香の原久迩の都は荒れにけり大宮人のうつろひぬれば |
1061 | 咲く花の色は変らずももしきの大宮人ぞたち変りける |
1062 | やすみしし我が大君のあり通ふ難波の宮は鯨魚取り海片付きて玉拾ふ浜辺を清み朝羽振る波の音騒き夕なぎに楫の音聞こゆ暁の寝覚に聞けば海石の潮干の共浦洲には千鳥妻呼び葦辺には鶴が音響む見る人の語りにすれば聞く人の見まく欲りする御食向ふ味経の宮は見れど飽かぬかも |
1063 | あり通ふ難波の宮は海近み海人娘子らが乗れる舟見ゆ |
1064 | 潮干れば葦辺に騒く白鶴の妻呼ぶ声は宮もとどろに |
1065 | 八千桙の神の御代より百舟の泊つる泊りと八島国百舟人の定めてし敏馬の浦は朝風に浦波騒き夕波に玉藻は来寄る白真砂清き浜辺は行き帰り見れども飽かずうべしこそ見る人ごとに語り継ぎ偲ひけらしき百代経て偲はえゆかむ清き白浜 |
1066 | まそ鏡敏馬の浦は百舟の過ぎて行くべき浜ならなくに |
1067 | 浜清み浦うるはしみ神代より千舟の泊つる大和太の浜 |