万葉集の第18巻を一覧にまとめました。
万葉集の第18巻一覧
4032 | 奈呉の海に舟しまし貸せ沖に出でて波立ち来やと見て帰り来む |
4033 | 波立てば奈呉の浦廻に寄る貝の間なき恋にぞ年は経にける |
4034 | 奈呉の海に潮の早干ばあさりしに出でむと鶴は今ぞ鳴くなる |
4035 | 霍公鳥いとふ時なしあやめぐさかづらにせむ日こゆ鳴き渡れ |
4036 | いかにある布勢の浦ぞもここだくに君が見せむと我れを留むる |
4037 | 乎布の崎漕ぎた廻りひねもすに見とも飽くべき浦にあらなくに一云君が問はすも |
4038 | 玉櫛笥いつしか明けむ布勢の海の浦を行きつつ玉も拾はむ |
4039 | 音のみに聞きて目に見ぬ布勢の浦を見ずは上らじ年は経ぬとも |
4040 | 布勢の浦を行きてし見てばももしきの大宮人に語り継ぎてむ |
4041 | 梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてら |
4042 | 藤波の咲き行く見れば霍公鳥鳴くべき時に近づきにけり |
4043 | 明日の日の布勢の浦廻の藤波にけだし来鳴かず散らしてむかも一頭云霍公鳥 |
4044 | 浜辺より我が打ち行かば海辺より迎へも来ぬか海人の釣舟 |
4045 | 沖辺より満ち来る潮のいや増しに我が思ふ君が御船かもかれ |
4046 | 神さぶる垂姫の崎漕ぎ廻り見れども飽かずいかに我れせむ |
4047 | 垂姫の浦を漕ぎつつ今日の日は楽しく遊べ言ひ継ぎにせむ |
4048 | 垂姫の浦を漕ぐ舟梶間にも奈良の我家を忘れて思へや |
4049 | おろかにぞ我れは思ひし乎布の浦の荒礒の廻り見れど飽かずけり |
4050 | めづらしき君が来まさば鳴けと言ひし山霍公鳥何か来鳴かぬ |
4051 | 多古の崎木の暗茂に霍公鳥来鳴き響めばはだ恋ひめやも |
4052 | 霍公鳥今鳴かずして明日越えむ山に鳴くとも験あらめやも |
4053 | 木の暗になりぬるものを霍公鳥何か来鳴かぬ君に逢へる時 |
4054 | 霍公鳥こよ鳴き渡れ燈火を月夜になそへその影も見む |
4055 | 可敝流廻の道行かむ日は五幡の坂に袖振れ我れをし思はば |
4056 | 堀江には玉敷かましを大君を御船漕がむとかねて知りせば |
4057 | 玉敷かず君が悔いて言ふ堀江には玉敷き満てて継ぎて通はむ或云玉扱き敷きて |
4058 | 橘のとをの橘八つ代にも我れは忘れじこの橘を |
4059 | 橘の下照る庭に殿建てて酒みづきいます我が大君かも |
4060 | 月待ちて家には行かむ我が插せる赤ら橘影に見えつつ |
4061 | 堀江より水脈引きしつつ御船さすしづ男の伴は川の瀬申せ |
4062 | 夏の夜は道たづたづし船に乗り川の瀬ごとに棹さし上れ |
4063 | 常世物この橘のいや照りにわご大君は今も見るごと |
4064 | 大君は常磐にまさむ橘の殿の橘ひた照りにして |
4065 | 朝開き入江漕ぐなる楫の音のつばらつばらに我家し思ほゆ |
4066 | 卯の花の咲く月立ちぬ霍公鳥来鳴き響めよ含みたりとも |
4067 | 二上の山に隠れる霍公鳥今も鳴かぬか君に聞かせむ |
4068 | 居り明かしも今夜は飲まむ霍公鳥明けむ朝は鳴き渡らむぞ二日應立夏節故謂之明旦将喧也 |
4069 | 明日よりは継ぎて聞こえむ霍公鳥一夜のからに恋ひわたるかも |
4070 | 一本のなでしこ植ゑしその心誰れに見せむと思ひ始めけむ |
4071 | しなざかる越の君らとかくしこそ柳かづらき楽しく遊ばめ |
4072 | ぬばたまの夜渡る月を幾夜経と数みつつ妹は我れ待つらむぞ |
4073 | 月見れば同じ国なり山こそば君があたりを隔てたりけれ |
4074 | 桜花今ぞ盛りと人は言へど我れは寂しも君としあらねば |
4075 | 相思はずあるらむ君をあやしくも嘆きわたるか人の問ふまで |
4076 | あしひきの山はなくもが月見れば同じき里を心隔てつ |
4077 | 我が背子が古き垣内の桜花いまだ含めり一目見に来ね |
4078 | 恋ふといふはえも名付けたり言ふすべのたづきもなきは我が身なりけり |
4079 | 三島野に霞たなびきしかすがに昨日も今日も雪は降りつつ |
4080 | 常人の恋ふといふよりはあまりにて我れは死ぬべくなりにたらずや |
4081 | 片思ひを馬にふつまに負ほせ持て越辺に遣らば人かたはむかも |
4082 | 天離る鄙の奴に天人しかく恋すらば生ける験あり |
4083 | 常の恋いまだやまぬに都より馬に恋来ば担ひあへむかも |
4084 | 暁に名告り鳴くなる霍公鳥いやめづらしく思ほゆるかも |
4085 | 焼太刀を砺波の関に明日よりは守部遣り添へ君を留めむ |
4086 | 油火の光りに見ゆる吾がかづらさ百合の花の笑まはしきかも |
4087 | 灯火の光りに見ゆるさ百合花ゆりも逢はむと思ひそめてき |
4088 | さ百合花ゆりも逢はむと思へこそ今のまさかもうるはしみすれ |
4089 | 高御座天の日継とすめろきの神の命の聞こしをす国のまほらに山をしもさはに多みと百鳥の来居て鳴く声春されば聞きのかなしもいづれをか別きて偲はむ卯の花の咲く月立てばめづらしく鳴く霍公鳥あやめぐさ玉貫くまでに昼暮らし夜わたし聞けど聞くごとに心つごきてうち嘆きあはれの鳥と言はぬ時なし |
4090 | ゆくへなくありわたるとも霍公鳥鳴きし渡らばかくや偲はむ |
4091 | 卯の花のともにし鳴けば霍公鳥いやめづらしも名告り鳴くなへ |
4092 | 霍公鳥いとねたけくは橘の花散る時に来鳴き響むる |
4093 | 阿尾の浦に寄する白波いや増しに立ちしき寄せ来東風をいたみかも |
4094 | 葦原の瑞穂の国を天下り知らしめしけるすめろきの神の命の御代重ね天の日継と知らし来る君の御代御代敷きませる四方の国には山川を広み厚みと奉る御調宝は数へえず尽くしもかねつしかれども我が大君の諸人を誘ひたまひよきことを始めたまひて金かもたしけくあらむと思ほして下悩ますに鶏が鳴く東の国の陸奥の小田なる山に黄金ありと申したまへれ御心を明らめたまひ天地の神相うづなひすめろきの御霊助けて遠き代にかかりしことを我が御代に顕はしてあれば食す国は栄えむものと神ながら思ほしめしてもののふの八十伴の緒をまつろへの向けのまにまに老人も女童もしが願ふ心足らひに撫でたまひ治めたまへばここをしもあやに貴み嬉しけくいよよ思ひて大伴の遠つ神祖のその名をば大久米主と負ひ持ちて仕へし官海行かば水漬く屍山行かば草生す屍大君の辺にこそ死なめかへり見はせじと言立て大夫の清きその名をいにしへよ今のをつづに流さへる祖の子どもぞ大伴と佐伯の氏は人の祖の立つる言立て人の子は祖の名絶たず大君にまつろふものと言ひ継げる言の官ぞ梓弓手に取り持ちて剣大刀腰に取り佩き朝守り夕の守りに大君の御門の守り我れをおきて人はあらじといや立て思ひし増さる大君の御言のさきの一云を聞けば貴み一云貴くしあれば |
4095 | 大夫の心思ほゆ大君の御言の幸を一云の聞けば貴み一云貴くしあれば |
4096 | 大伴の遠つ神祖の奥城はしるく標立て人の知るべく |
4097 | 天皇の御代栄えむと東なる陸奥山に黄金花咲く |
4098 | 高御座天の日継と天の下知らしめしける天皇の神の命の畏くも始めたまひて貴くも定めたまへるみ吉野のこの大宮にあり通ひ見したまふらしもののふの八十伴の男もおのが負へるおのが名負ひて大君の任けのまにまにこの川の絶ゆることなくこの山のいや継ぎ継ぎにかくしこそ仕へまつらめいや遠長に |
4099 | いにしへを思ほすらしも我ご大君吉野の宮をあり通ひ見す |
4100 | もののふの八十氏人も吉野川絶ゆることなく仕へつつ見む |
4101 | 珠洲の海人の沖つ御神にい渡りて潜き取るといふ鰒玉五百箇もがもはしきよし妻の命の衣手の別れし時よぬばたまの夜床片さり朝寝髪掻きも梳らず出でて来し月日数みつつ嘆くらむ心なぐさに霍公鳥来鳴く五月のあやめぐさ花橘に貫き交へかづらにせよと包みて遣らむ |
4102 | 白玉を包みて遣らばあやめぐさ花橘にあへも貫くがね |
4103 | 沖つ島い行き渡りて潜くちふ鰒玉もが包みて遣らむ |
4104 | 我妹子が心なぐさに遣らむため沖つ島なる白玉もがも |
4105 | 白玉の五百つ集ひを手にむすびおこせむ海人はむがしくもあるか一云我家牟伎波母 |
4106 | 大汝少彦名の神代より言ひ継ぎけらく父母を見れば貴く妻子見ればかなしくめぐしうつせみの世のことわりとかくさまに言ひけるものを世の人の立つる言立てちさの花咲ける盛りにはしきよしその妻の子と朝夕に笑みみ笑まずもうち嘆き語りけまくはとこしへにかくしもあらめや天地の神言寄せて春花の盛りもあらむと待たしけむ時の盛りぞ離れ居て嘆かす妹がいつしかも使の来むと待たすらむ心寂しく南風吹き雪消溢りて射水川流る水沫の寄る辺なみ左夫流その子に紐の緒のいつがり合ひてにほ鳥のふたり並び居奈呉の海の奥を深めてさどはせる君が心のすべもすべなさ言佐夫流者遊行女婦之字也 |
4107 | あをによし奈良にある妹が高々に待つらむ心しかにはあらじか |
4108 | 里人の見る目恥づかし左夫流子にさどはす君が宮出後姿 |
4109 | 紅はうつろふものぞ橡のなれにし衣になほしかめやも |
4110 | 左夫流子が斎きし殿に鈴懸けぬ駅馬下れり里もとどろに |
4111 | かけまくもあやに畏し天皇の神の大御代に田道間守常世に渡り八桙持ち参ゐ出来し時時じくのかくの木の実を畏くも残したまへれ国も狭に生ひ立ち栄え春されば孫枝萌いつつ霍公鳥鳴く五月には初花を枝に手折りて娘子らにつとにも遣りみ白栲の袖にも扱入れかぐはしみ置きて枯らしみあゆる実は玉に貫きつつ手に巻きて見れども飽かず秋づけばしぐれの雨降りあしひきの山の木末は紅ににほひ散れども橘のなれるその実はひた照りにいや見が欲しくみ雪降る冬に至れば霜置けどもその葉も枯れず常磐なすいやさかはえにしかれこそ神の御代よりよろしなへこの橘を時じくのかくの木の実と名付けけらしも |
4112 | 橘は花にも実にも見つれどもいや時じくになほし見が欲し |
4113 | 大君の遠の朝廷と任きたまふ官のまにまみ雪降る越に下り来あらたまの年の五年敷栲の手枕まかず紐解かず丸寝をすればいぶせみと心なぐさになでしこを宿に蒔き生ほし夏の野のさ百合引き植ゑて咲く花を出で見るごとになでしこがその花妻にさ百合花ゆりも逢はむと慰むる心しなくは天離る鄙に一日もあるべくもあれや |
4114 | なでしこが花見るごとに娘子らが笑まひのにほひ思ほゆるかも |
4115 | さ百合花ゆりも逢はむと下延ふる心しなくは今日も経めやも |
4116 | 大君の任きのまにまに取り持ちて仕ふる国の年の内の事かたね持ち玉桙の道に出で立ち岩根踏み山越え野行き都辺に参ゐし我が背をあらたまの年行き返り月重ね見ぬ日さまねみ恋ふるそら安くしあらねば霍公鳥来鳴く五月のあやめぐさ蓬かづらき酒みづき遊びなぐれど射水川雪消溢りて行く水のいや増しにのみ鶴が鳴く奈呉江の菅のねもころに思ひ結ぼれ嘆きつつ我が待つ君が事終り帰り罷りて夏の野のさ百合の花の花笑みににふぶに笑みて逢はしたる今日を始めて鏡なすかくし常見む面変りせず |
4117 | 去年の秋相見しまにま今日見れば面やめづらし都方人 |
4118 | かくしても相見るものを少なくも年月経れば恋ひしけれやも |
4119 | いにしへよ偲ひにければ霍公鳥鳴く声聞きて恋しきものを |
4120 | 見まく欲り思ひしなへにかづらかけかぐはし君を相見つるかも |
4121 | 朝参の君が姿を見ず久に鄙にし住めば我れ恋ひにけり一云はしきよし妹が姿を |
4122 | 天皇の敷きます国の天の下四方の道には馬の爪い尽くす極み舟舳のい果つるまでにいにしへよ今のをつづに万調奉るつかさと作りたるその生業を雨降らず日の重なれば植ゑし田も蒔きし畑も朝ごとにしぼみ枯れゆくそを見れば心を痛みみどり子の乳乞ふがごとく天つ水仰ぎてぞ待つあしひきの山のたをりにこの見ゆる天の白雲海神の沖つ宮辺に立ちわたりとの曇りあひて雨も賜はね |
4123 | この見ゆる雲ほびこりてとの曇り雨も降らぬか心足らひに |
4124 | 我が欲りし雨は降り来ぬかくしあらば言挙げせずとも年は栄えむ |
4125 | 天照らす神の御代より安の川中に隔てて向ひ立ち袖振り交し息の緒に嘆かす子ら渡り守舟も設けず橋だにも渡してあらばその上ゆもい行き渡らし携はりうながけり居て思ほしき言も語らひ慰むる心はあらむを何しかも秋にしあらねば言どひの乏しき子らうつせみの世の人我れもここをしもあやにくすしみ行きかはる年のはごとに天の原振り放け見つつ言ひ継ぎにすれ |
4126 | 天の川橋渡せらばその上ゆもい渡らさむを秋にあらずとも |
4127 | 安の川こ向ひ立ちて年の恋日長き子らが妻どひの夜ぞ |
4128 | 草枕旅の翁と思ほして針ぞ賜へる縫はむ物もが |
4129 | 針袋取り上げ前に置き返さへばおのともおのや裏も継ぎたり |
4130 | 針袋帯び続けながら里ごとに照らさひ歩けど人もとがめず |
4131 | 鶏が鳴く東をさしてふさへしに行かむと思へどよしもさねなし |
4132 | 縦さにもかにも横さも奴とぞ我れはありける主の殿戸に |
4133 | 針袋これは賜りぬすり袋今は得てしか翁さびせむ |
4134 | 雪の上に照れる月夜に梅の花折りて送らむはしき子もがも |
4135 | 我が背子が琴取るなへに常人の言ふ嘆きしもいやしき増すも |
4136 | あしひきの山の木末のほよ取りてかざしつらくは千年寿くとぞ |
4137 | 正月立つ春の初めにかくしつつ相し笑みてば時じけめやも |
4138 | 薮波の里に宿借り春雨に隠りつつむと妹に告げつや |