万葉集の第17巻を一覧にまとめました。
万葉集の第17巻一覧
3890 | 我が背子を安我松原よ見わたせば海人娘子ども玉藻刈る見ゆ |
3891 | 荒津の海潮干潮満ち時はあれどいづれの時か我が恋ひざらむ |
3892 | 礒ごとに海人の釣舟泊てにけり我が船泊てむ礒の知らなく |
3893 | 昨日こそ船出はせしか鯨魚取り比治奇の灘を今日見つるかも |
3894 | 淡路島門渡る船の楫間にも我れは忘れず家をしぞ思ふ |
3895 | たまはやす武庫の渡りに天伝ふ日の暮れ行けば家をしぞ思ふ |
3896 | 家にてもたゆたふ命波の上に思ひし居れば奥か知らずも一云浮きてし居れば |
3897 | 大海の奥かも知らず行く我れをいつ来まさむと問ひし子らはも |
3898 | 大船の上にし居れば天雲のたどきも知らず歌ひこそ我が背 |
3899 | 海人娘子漁り焚く火のおぼほしく角の松原思ほゆるかも |
3900 | 織女し舟乗りすらしまそ鏡清き月夜に雲立ちわたる |
3901 | み冬継ぎ春は来たれど梅の花君にしあらねば招く人もなし |
3902 | 梅の花み山としみにありともやかくのみ君は見れど飽かにせむ |
3903 | 春雨に萌えし柳か梅の花ともに後れぬ常の物かも |
3904 | 梅の花いつは折らじといとはねど咲きの盛りは惜しきものなり |
3905 | 遊ぶ内の楽しき庭に梅柳折りかざしてば思ひなみかも |
3906 | 御園生の百木の梅の散る花し天に飛び上がり雪と降りけむ |
3907 | 山背の久迩の都は春されば花咲きををり秋されば黄葉にほひ帯ばせる泉の川の上つ瀬に打橋渡し淀瀬には浮橋渡しあり通ひ仕へまつらむ万代までに |
3908 | たたなめて泉の川の水脈絶えず仕へまつらむ大宮ところ |
3909 | 橘は常花にもが霍公鳥住むと来鳴かば聞かぬ日なけむ |
3910 | 玉に貫く楝を家に植ゑたらば山霍公鳥離れず来むかも |
3911 | あしひきの山辺に居れば霍公鳥木の間立ち潜き鳴かぬ日はなし |
3912 | 霍公鳥何の心ぞ橘の玉貫く月し来鳴き響むる |
3913 | 霍公鳥楝の枝に行きて居ば花は散らむな玉と見るまで |
3914 | 霍公鳥今し来鳴かば万代に語り継ぐべく思ほゆるかも |
3915 | あしひきの山谷越えて野づかさに今は鳴くらむ鴬の声 |
3916 | 橘のにほへる香かも霍公鳥鳴く夜の雨にうつろひぬらむ |
3917 | 霍公鳥夜声なつかし網ささば花は過ぐとも離れずか鳴かむ |
3918 | 橘のにほへる園に霍公鳥鳴くと人告ぐ網ささましを |
3919 | あをによし奈良の都は古りぬれどもと霍公鳥鳴かずあらなくに |
3920 | 鶉鳴く古しと人は思へれど花橘のにほふこの宿 |
3921 | かきつばた衣に摺り付け大夫の着襲ひ猟する月は来にけり |
3922 | 降る雪の白髪までに大君に仕へまつれば貴くもあるか |
3923 | 天の下すでに覆ひて降る雪の光りを見れば貴くもあるか |
3924 | 山の狭そことも見えず一昨日も昨日も今日も雪の降れれば |
3925 | 新しき年の初めに豊の年しるすとならし雪の降れるは |
3926 | 大宮の内にも外にも光るまで降れる白雪見れど飽かぬかも |
3927 | 草枕旅行く君を幸くあれと斎瓮据ゑつ我が床の辺に |
3928 | 今のごと恋しく君が思ほえばいかにかもせむするすべのなさ |
3929 | 旅に去にし君しも継ぎて夢に見ゆ我が片恋の繁ければかも |
3930 | 道の中国つみ神は旅行きもし知らぬ君を恵みたまはな |
3931 | 君により我が名はすでに龍田山絶えたる恋の繁きころかも |
3932 | 須磨人の海辺常去らず焼く塩の辛き恋をも我れはするかも |
3933 | ありさりて後も逢はむと思へこそ露の命も継ぎつつ渡れ |
3934 | なかなかに死なば安けむ君が目を見ず久ならばすべなかるべし |
3935 | 隠り沼の下ゆ恋ひあまり白波のいちしろく出でぬ人の知るべく |
3936 | 草枕旅にしばしばかくのみや君を遣りつつ我が恋ひ居らむ |
3937 | 草枕旅去にし君が帰り来む月日を知らむすべの知らなく |
3938 | かくのみや我が恋ひ居らむぬばたまの夜の紐だに解き放けずして |
3939 | 里近く君がなりなば恋ひめやともとな思ひし我れぞ悔しき |
3940 | 万代に心は解けて我が背子が捻みし手見つつ忍びかねつも |
3941 | 鴬の鳴くくら谷にうちはめて焼けは死ぬとも君をし待たむ |
3942 | 松の花花数にしも我が背子が思へらなくにもとな咲きつつ |
3943 | 秋の田の穂向き見がてり我が背子がふさ手折り来るをみなへしかも |
3944 | をみなへし咲きたる野辺を行き廻り君を思ひ出た廻り来ぬ |
3945 | 秋の夜は暁寒し白栲の妹が衣手着むよしもがも |
3946 | 霍公鳥鳴きて過ぎにし岡びから秋風吹きぬよしもあらなくに |
3947 | 今朝の朝明秋風寒し遠つ人雁が来鳴かむ時近みかも |
3948 | 天離る鄙に月経ぬしかれども結ひてし紐を解きも開けなくに |
3949 | 天離る鄙にある我れをうたがたも紐解き放けて思ほすらめや |
3950 | 家にして結ひてし紐を解き放けず思ふ心を誰れか知らむも |
3951 | ひぐらしの鳴きぬる時はをみなへし咲きたる野辺を行きつつ見べし |
3952 | 妹が家に伊久里の杜の藤の花今来む春も常かくし見む |
3953 | 雁がねは使ひに来むと騒くらむ秋風寒みその川の上に |
3954 | 馬並めていざ打ち行かな渋谿の清き礒廻に寄する波見に |
3955 | ぬばたまの夜は更けぬらし玉櫛笥二上山に月かたぶきぬ |
3956 | 奈呉の海人の釣する舟は今こそば舟棚打ちてあへて漕ぎ出め |
3957 | 天離る鄙治めにと大君の任けのまにまに出でて来し我れを送るとあをによし奈良山過ぎて泉川清き河原に馬留め別れし時にま幸くて我れ帰り来む平らけく斎ひて待てと語らひて来し日の極み玉桙の道をた遠み山川の隔りてあれば恋しけく日長きものを見まく欲り思ふ間に玉梓の使の来れば嬉しみと我が待ち問ふにおよづれのたはこととかもはしきよし汝弟の命なにしかも時しはあらむをはだすすき穂に出づる秋の萩の花にほへる宿を言斯人為性好愛花草花樹而多<植>於寝院之庭故謂之花薫庭也朝庭に出で立ち平し夕庭に踏み平げず佐保の内の里を行き過ぎあしひきの山の木末に白雲に立ちたなびくと我れに告げつる佐保山火葬故謂之佐保の内の里を行き過ぎ |
3958 | ま幸くと言ひてしものを白雲に立ちたなびくと聞けば悲しも |
3959 | かからむとかねて知りせば越の海の荒礒の波も見せましものを |
3960 | 庭に降る雪は千重敷くしかのみに思ひて君を我が待たなくに |
3961 | 白波の寄する礒廻を漕ぐ舟の楫取る間なく思ほえし君 |
3962 | 大君の任けのまにまに大夫の心振り起しあしひきの山坂越えて天離る鄙に下り来息だにもいまだ休めず年月もいくらもあらぬにうつせみの世の人なればうち靡き床に臥い伏し痛けくし日に異に増さるたらちねの母の命の大船のゆくらゆくらに下恋にいつかも来むと待たすらむ心寂しくはしきよし妻の命も明けくれば門に寄り立ち衣手を折り返しつつ夕されば床打ち払ひぬばたまの黒髪敷きていつしかと嘆かすらむぞ妹も兄も若き子どもはをちこちに騒き泣くらむ玉桙の道をた遠み間使も遺るよしもなし思ほしき言伝て遣らず恋ふるにし心は燃えぬたまきはる命惜しけど為むすべのたどきを知らにかくしてや荒し男すらに嘆き伏せらむ |
3963 | 世間は数なきものか春花の散りのまがひに死ぬべき思へば |
3964 | 山川のそきへを遠みはしきよし妹を相見ずかくや嘆かむ |
3965 | 春の花今は盛りににほふらむ折りてかざさむ手力もがも |
3966 | 鴬の鳴き散らすらむ春の花いつしか君と手折りかざさむ |
3967 | 山峽に咲ける桜をただ一目君に見せてば何をか思はむ |
3968 | 鴬の来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも |
3969 | 大君の任けのまにまにしなざかる越を治めに出でて来しますら我れすら世間の常しなければうち靡き床に臥い伏し痛けくの日に異に増せば悲しけくここに思ひ出いらなけくそこに思ひ出嘆くそら安けなくに思ふそら苦しきものをあしひきの山きへなりて玉桙の道の遠けば間使も遣るよしもなみ思ほしき言も通はずたまきはる命惜しけどせむすべのたどきを知らに隠り居て思ひ嘆かひ慰むる心はなしに春花の咲ける盛りに思ふどち手折りかざさず春の野の茂み飛び潜く鴬の声だに聞かず娘子らが春菜摘ますと紅の赤裳の裾の春雨ににほひひづちて通ふらむ時の盛りをいたづらに過ぐし遣りつれ偲はせる君が心をうるはしみこの夜すがらに寐も寝ずに今日もしめらに恋ひつつぞ居る |
3970 | あしひきの山桜花一目だに君とし見てば我れ恋ひめやも |
3971 | 山吹の茂み飛び潜く鴬の声を聞くらむ君は羨しも |
3972 | 出で立たむ力をなみと隠り居て君に恋ふるに心どもなし |
3973 | 大君の命畏みあしひきの山野さはらず天離る鄙も治むる大夫やなにか物思ふあをによし奈良道来通ふ玉梓の使絶えめや隠り恋ひ息づきわたり下思に嘆かふ我が背いにしへゆ言ひ継ぎくらし世間は数なきものぞ慰むることもあらむと里人の我れに告ぐらく山びには桜花散り貌鳥の間なくしば鳴く春の野にすみれを摘むと白栲の袖折り返し紅の赤裳裾引き娘子らは思ひ乱れて君待つとうら恋すなり心ぐしいざ見に行かなことはたなゆひ |
3974 | 山吹は日に日に咲きぬうるはしと我が思ふ君はしくしく思ほゆ |
3975 | 我が背子に恋ひすべながり葦垣の外に嘆かふ我れし悲しも |
3976 | 咲けりとも知らずしあらば黙もあらむこの山吹を見せつつもとな |
3977 | 葦垣の外にも君が寄り立たし恋ひけれこそば夢に見えけれ |
3978 | 妹も我れも心は同じたぐへれどいやなつかしく相見れば常初花に心ぐしめぐしもなしにはしけやし我が奥妻大君の命畏みあしひきの山越え野行き天離る鄙治めにと別れ来しその日の極みあらたまの年行き返り春花のうつろふまでに相見ねばいたもすべなみ敷栲の袖返しつつ寝る夜おちず夢には見れどうつつにし直にあらねば恋しけく千重に積もりぬ近くあらば帰りにだにもうち行きて妹が手枕さし交へて寝ても来ましを玉桙の道はし遠く関さへにへなりてあれこそよしゑやしよしはあらむぞ霍公鳥来鳴かむ月にいつしかも早くなりなむ卯の花のにほへる山をよそのみも振り放け見つつ近江道にい行き乗り立ちあをによし奈良の我家にぬえ鳥のうら泣けしつつ下恋に思ひうらぶれ門に立ち夕占問ひつつ我を待つと寝すらむ妹を逢ひてはや見む |
3979 | あらたまの年返るまで相見ねば心もしのに思ほゆるかも |
3980 | ぬばたまの夢にはもとな相見れど直にあらねば恋ひやまずけり |
3981 | あしひきの山きへなりて遠けども心し行けば夢に見えけり |
3982 | 春花のうつろふまでに相見ねば月日数みつつ妹待つらむぞ |
3983 | あしひきの山も近きを霍公鳥月立つまでに何か来鳴かぬ |
3984 | 玉に貫く花橘をともしみしこの我が里に来鳴かずあるらし |
3985 | 射水川い行き廻れる玉櫛笥二上山は春花の咲ける盛りに秋の葉のにほへる時に出で立ちて振り放け見れば神からやそこば貴き山からや見が欲しからむ統め神の裾廻の山の渋谿の崎の荒礒に朝なぎに寄する白波夕なぎに満ち来る潮のいや増しに絶ゆることなくいにしへゆ今のをつつにかくしこそ見る人ごとに懸けて偲はめ |
3986 | 渋谿の崎の荒礒に寄する波いやしくしくにいにしへ思ほゆ |
3987 | 玉櫛笥二上山に鳴く鳥の声の恋しき時は来にけり |
3988 | ぬばたまの月に向ひて霍公鳥鳴く音遥けし里遠みかも |
3989 | 奈呉の海の沖つ白波しくしくに思ほえむかも立ち別れなば |
3990 | 我が背子は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜し |
3991 | もののふの八十伴の男の思ふどち心遣らむと馬並めてうちくちぶりの白波の荒礒に寄する渋谿の崎た廻り松田江の長浜過ぎて宇奈比川清き瀬ごとに鵜川立ちか行きかく行き見つれどもそこも飽かにと布勢の海に舟浮け据ゑて沖辺漕ぎ辺に漕ぎ見れば渚にはあぢ群騒き島廻には木末花咲きここばくも見のさやけきか玉櫛笥二上山に延ふ蔦の行きは別れずあり通ひいや年のはに思ふどちかくし遊ばむ今も見るごと |
3992 | 布勢の海の沖つ白波あり通ひいや年のはに見つつ偲はむ |
3993 | 藤波は咲きて散りにき卯の花は今ぞ盛りとあしひきの山にも野にも霍公鳥鳴きし響めばうち靡く心もしのにそこをしもうら恋しみと思ふどち馬打ち群れて携はり出で立ち見れば射水川港の渚鳥朝なぎに潟にあさりし潮満てば夫呼び交す羨しきに見つつ過ぎ行き渋谿の荒礒の崎に沖つ波寄せ来る玉藻片縒りに蘰に作り妹がため手に巻き持ちてうらぐはし布勢の水海に海人船にま楫掻い貫き白栲の袖振り返しあどもひて我が漕ぎ行けば乎布の崎花散りまがひ渚には葦鴨騒きさざれ波立ちても居ても漕ぎ廻り見れども飽かず秋さらば黄葉の時に春さらば花の盛りにかもかくも君がまにまとかくしこそ見も明らめめ絶ゆる日あらめや |
3994 | 白波の寄せ来る玉藻世の間も継ぎて見に来む清き浜びを |
3995 | 玉桙の道に出で立ち別れなば見ぬ日さまねみ恋しけむかも一云見ぬ日久しみ恋しけむかも |
3996 | 我が背子が国へましなば霍公鳥鳴かむ五月は寂しけむかも |
3997 | 我れなしとなわび我が背子霍公鳥鳴かむ五月は玉を貫かさね |
3998 | 我が宿の花橘を花ごめに玉にぞ我が貫く待たば苦しみ |
3999 | 都辺に立つ日近づく飽くまでに相見て行かな恋ふる日多けむ |
4000 | 天離る鄙に名懸かす越の中国内ことごと山はしもしじにあれども川はしも多に行けども統め神の領きいます新川のその立山に常夏に雪降り敷きて帯ばせる片貝川の清き瀬に朝夕ごとに立つ霧の思ひ過ぎめやあり通ひいや年のはによそのみも振り放け見つつ万代の語らひぐさといまだ見ぬ人にも告げむ音のみも名のみも聞きて羨しぶるがね |
4001 | 立山に降り置ける雪を常夏に見れども飽かず神からならし |
4002 | 片貝の川の瀬清く行く水の絶ゆることなくあり通ひ見む |
4003 | 朝日さしそがひに見ゆる神ながら御名に帯ばせる白雲の千重を押し別け天そそり高き立山冬夏と別くこともなく白栲に雪は降り置きて古ゆあり来にければこごしかも岩の神さびたまきはる幾代経にけむ立ちて居て見れども異し峰高み谷を深みと落ちたぎつ清き河内に朝さらず霧立ちわたり夕されば雲居たなびき雲居なす心もしのに立つ霧の思ひ過ぐさず行く水の音もさやけく万代に言ひ継ぎゆかむ川し絶えずは |
4004 | 立山に降り置ける雪の常夏に消ずてわたるは神ながらとぞ |
4005 | 落ちたぎつ片貝川の絶えぬごと今見る人もやまず通はむ |
4006 | かき数ふ二上山に神さびて立てる栂の木本も枝も同じときはにはしきよし我が背の君を朝去らず逢ひて言どひ夕されば手携はりて射水川清き河内に出で立ちて我が立ち見れば東風の風いたくし吹けば港には白波高み妻呼ぶと渚鳥は騒く葦刈ると海人の小舟は入江漕ぐ楫の音高しそこをしもあやに羨しみ偲ひつつ遊ぶ盛りを天皇の食す国なれば御言持ち立ち別れなば後れたる君はあれども玉桙の道行く我れは白雲のたなびく山を岩根踏み越えへなりなば恋しけく日の長けむぞそこ思へば心し痛し霍公鳥声にあへ貫く玉にもが手に巻き持ちて朝夕に見つつ行かむを置きて行かば惜し |
4007 | 我が背子は玉にもがもな霍公鳥声にあへ貫き手に巻きて行かむ |
4008 | あをによし奈良を来離れ天離る鄙にはあれど我が背子を見つつし居れば思ひ遣ることもありしを大君の命畏み食す国の事取り持ちて若草の足結ひ手作り群鳥の朝立ち去なば後れたる我れや悲しき旅に行く君かも恋ひむ思ふそら安くあらねば嘆かくを留めもかねて見わたせば卯の花山の霍公鳥音のみし泣かゆ朝霧の乱るる心言に出でて言はばゆゆしみ砺波山手向けの神に幣奉り我が祈ひ祷まくはしけやし君が直香をま幸くもありた廻り月立たば時もかはさずなでしこが花の盛りに相見しめとぞ |
4009 | 玉桙の道の神たち賄はせむ我が思ふ君をなつかしみせよ |
4010 | うら恋し我が背の君はなでしこが花にもがもな朝な朝な見む |
4011 | 大君の遠の朝廷ぞみ雪降る越と名に追へる天離る鄙にしあれば山高み川とほしろし野を広み草こそ茂き鮎走る夏の盛りと島つ鳥鵜養が伴は行く川の清き瀬ごとに篝さしなづさひ上る露霜の秋に至れば野も多に鳥すだけりと大夫の友誘ひて鷹はしもあまたあれども矢形尾の我が大黒に大黒者蒼鷹之名也白塗の鈴取り付けて朝猟に五百つ鳥立て夕猟に千鳥踏み立て追ふ毎に許すことなく手放れもをちもかやすきこれをおきてまたはありがたしさ慣らへる鷹はなけむと心には思ひほこりて笑まひつつ渡る間に狂れたる醜つ翁の言だにも我れには告げずとの曇り雨の降る日を鳥猟すと名のみを告りて三島野をそがひに見つつ二上の山飛び越えて雲隠り翔り去にきと帰り来てしはぶれ告ぐれ招くよしのそこになければ言ふすべのたどきを知らに心には火さへ燃えつつ思ひ恋ひ息づきあまりけだしくも逢ふことありやとあしひきのをてもこのもに鳥網張り守部を据ゑてちはやぶる神の社に照る鏡倭文に取り添へ祈ひ祷みて我が待つ時に娘子らが夢に告ぐらく汝が恋ふるその秀つ鷹は松田江の浜行き暮らしつなし捕る氷見の江過ぎて多古の島飛びた廻り葦鴨のすだく古江に一昨日も昨日もありつ近くあらばいま二日だみ遠くあらば七日のをちは過ぎめやも来なむ我が背子ねもころにな恋ひそよとぞいまに告げつる |
4012 | 矢形尾の鷹を手に据ゑ三島野に猟らぬ日まねく月ぞ経にける |
4013 | 二上のをてもこのもに網さして我が待つ鷹を夢に告げつも |
4014 | 松反りしひにてあれかもさ山田の翁がその日に求めあはずけむ |
4015 | 心には緩ふことなく須加の山すかなくのみや恋ひわたりなむ |
4016 | 婦負の野のすすき押しなべ降る雪に宿借る今日し悲しく思ほゆ |
4017 | あゆの風越俗語東風謂之あゆの風是也いたく吹くらし奈呉の海人の釣する小船漕ぎ隠る見ゆ |
4018 | 港風寒く吹くらし奈呉の江に妻呼び交し鶴多に鳴く一云鶴騒くなり |
4019 | 天離る鄙ともしるくここだくも繁き恋かもなぐる日もなく |
4020 | 越の海の信濃濱名也の浜を行き暮らし長き春日も忘れて思へや |
4021 | 雄神川紅にほふ娘子らし葦付水松之類取ると瀬に立たすらし |
4022 | 鵜坂川渡る瀬多みこの我が馬の足掻きの水に衣濡れにけり |
4023 | 婦負川の早き瀬ごとに篝さし八十伴の男は鵜川立ちけり |
4024 | 立山の雪し消らしも延槻の川の渡り瀬鐙漬かすも |
4025 | 志雄路から直越え来れば羽咋の海朝なぎしたり船楫もがも |
4026 | 鳥総立て船木伐るといふ能登の島山今日見れば木立繁しも幾代神びぞ |
4027 | 香島より熊来をさして漕ぐ船の楫取る間なく都し思ほゆ |
4028 | 妹に逢はず久しくなりぬ饒石川清き瀬ごとに水占延へてな |
4029 | 珠洲の海に朝開きして漕ぎ来れば長浜の浦に月照りにけり |
4030 | 鴬は今は鳴かむと片待てば霞たなびき月は経につつ |
4031 | 中臣の太祝詞言言ひ祓へ贖ふ命も誰がために汝れ |