万葉集の第13巻を一覧にまとめました。
万葉集の第13巻一覧
3221 | 冬こもり春さり来れば朝には白露置き夕には霞たなびく汗瑞能振木末が下に鴬鳴くも |
3222 | みもろは人の守る山本辺は馬酔木花咲き末辺は椿花咲くうらぐはし山ぞ泣く子守る山 |
3223 | かむとけの日香空の九月のしぐれの降れば雁がねもいまだ来鳴かぬ神なびの清き御田屋の垣つ田の池の堤の百足らず斎槻の枝に瑞枝さす秋の黄葉まき持てる小鈴もゆらに手弱女に我れはあれども引き攀ぢて枝もとををにふさ手折り我は持ちて行く君がかざしに |
3224 | ひとりのみ見れば恋しみ神なびの山の黄葉手折り来り君 |
3225 | 天雲の影さへ見ゆるこもりくの泊瀬の川は浦なみか舟の寄り来ぬ礒なみか海人の釣せぬよしゑやし浦はなくともよしゑやし礒はなくとも沖つ波競ひ漕入り来海人の釣舟 |
3226 | さざれ波浮きて流るる泊瀬川寄るべき礒のなきが寂しさ |
3227 | 葦原の瑞穂の国に手向けすと天降りましけむ五百万千万神の神代より言ひ継ぎ来る神なびのみもろの山は春されば春霞立つ秋行けば紅にほふ神なびのみもろの神の帯ばせる明日香の川の水脈早み生しためかたき石枕苔生すまでに新夜の幸く通はむ事計り夢に見せこそ剣太刀斎ひ祭れる神にしませば |
3228 | 神なびの三諸の山に斎ふ杉思ひ過ぎめや苔生すまでに |
3229 | 斎串立てみわ据ゑ奉る祝部がうずの玉かげ見ればともしも |
3230 | みてぐらを奈良より出でて水蓼穂積に至り鳥網張る坂手を過ぎ石走る神なび山に朝宮に仕へ奉りて吉野へと入ります見ればいにしへ思ほゆ |
3231 | 月は日は変らひぬとも久に経る三諸の山の離宮ところ |
3231S | 古き都の離宮ところ |
3232 | 斧取りて丹生の桧山の木伐り来て筏に作り真楫貫き礒漕ぎ廻つつ島伝ひ見れども飽かずみ吉野の瀧もとどろに落つる白波 |
3233 | み吉野の瀧もとどろに落つる白波留まりにし妹に見せまく欲しき白波 |
3234 | やすみしし我ご大君高照らす日の御子のきこしをす御食つ国神風の伊勢の国は国見ればしも山見れば高く貴し川見ればさやけく清し水門なす海もゆたけし見わたす島も名高しここをしもまぐはしみかもかけまくもあやに畏き山辺の五十師の原にうちひさす大宮仕へ朝日なすまぐはしも夕日なすうらぐはしも春山のしなひ栄えて秋山の色なつかしきももしきの大宮人は天地日月とともに万代にもが |
3235 | 山辺の五十師の御井はおのづから成れる錦を張れる山かも |
3236 | そらみつ大和の国あをによし奈良山越えて山背の管木の原ちはやぶる宇治の渡り瀧つ屋の阿後尼の原を千年に欠くることなく万代にあり通はむと山科の石田の杜のすめ神に幣取り向けて我れは越え行く逢坂山を |
3237 | あをによし奈良山過ぎてもののふの宇治川渡り娘子らに逢坂山に手向け草幣取り置きて我妹子に近江の海の沖つ波来寄る浜辺をくれくれとひとりぞ我が来る妹が目を欲り |
3238 | 逢坂をうち出でて見れば近江の海白木綿花に波立ちわたる |
3239 | 近江の海泊り八十あり八十島の島の崎々あり立てる花橘をほつ枝にもち引き懸け中つ枝に斑鳩懸け下枝に比米を懸け汝が母を取らくを知らに汝が父を取らくを知らにいそばひ居るよ斑鳩と比米と |
3240 | 大君の命畏み見れど飽かぬ奈良山越えて真木積む泉の川の早き瀬を棹さし渡りちはやぶる宇治の渡りのたきつ瀬を見つつ渡りて近江道の逢坂山に手向けして我が越え行けば楽浪の志賀の唐崎幸くあらばまたかへり見む道の隈八十隈ごとに嘆きつつ我が過ぎ行けばいや遠に里離り来ぬいや高に山も越え来ぬ剣太刀鞘ゆ抜き出でて伊香胡山いかにか我がせむゆくへ知らずて |
3241 | 天地を嘆き祈ひ祷み幸くあらばまたかへり見む志賀の唐崎 |
3242 | ももきね美濃の国の高北のくくりの宮に日向ひに行靡闕矣ありと聞きて我が行く道の奥十山美濃の山靡けと人は踏めどもかく寄れと人は突けども心なき山の奥十山美濃の山 |
3243 | 娘子らが麻笥に垂れたる続麻なす長門の浦に朝なぎに満ち来る潮の夕なぎに寄せ来る波のその潮のいやますますにその波のいやしくしくに我妹子に恋ひつつ来れば阿胡の海の荒礒の上に浜菜摘む海人娘子らがうながせる領布も照るがに手に巻ける玉もゆららに白栲の袖振る見えつ相思ふらしも |
3244 | 阿胡の海の荒礒の上のさざれ波我が恋ふらくはやむ時もなし |
3245 | 天橋も長くもがも高山も高くもがも月夜見の持てるをち水い取り来て君に奉りてをち得てしかも |
3246 | 天なるや月日のごとく我が思へる君が日に異に老ゆらく惜しも |
3247 | 沼名川の底なる玉求めて得し玉かも拾ひて得し玉かもあたらしき君が老ゆらく惜しも |
3248 | 磯城島の大和の国に人さはに満ちてあれども藤波の思ひまつはり若草の思ひつきにし君が目に恋ひや明かさむ長きこの夜を |
3249 | 磯城島の大和の国に人ふたりありとし思はば何か嘆かむ |
3250 | 蜻蛉島大和の国は神からと言挙げせぬ国しかれども我れは言挙げす天地の神もはなはだ我が思ふ心知らずや行く影の月も経ゆけば玉かぎる日も重なりて思へかも胸の苦しき恋ふれかも心の痛き末つひに君に逢はずは我が命の生けらむ極み恋ひつつも我れは渡らむまそ鏡直目に君を相見てばこそ我が恋やまめ |
3251 | 大船の思ひ頼める君ゆゑに尽す心は惜しけくもなし |
3252 | ひさかたの都を置きて草枕旅行く君をいつとか待たむ |
3253 | 葦原の瑞穂の国は神ながら言挙げせぬ国しかれども言挙げぞ我がする言幸くま幸くませと障みなく幸くいまさば荒礒波ありても見むと百重波千重波しきに言挙げす我れは<言挙げす我れは> |
3254 | 磯城島の大和の国は言霊の助くる国ぞま幸くありこそ |
3255 | 古ゆ言ひ継ぎけらく恋すれば苦しきものと玉の緒の継ぎては言へど娘子らが心を知らにそを知らむよしのなければ夏麻引く命かたまけ刈り薦の心もしのに人知れずもとなぞ恋ふる息の緒にして |
3256 | しくしくに思はず人はあるらめどしましくも我は忘らえぬかも |
3257 | 直に来ずこゆ巨勢道から岩せ踏みなづみぞ我が来し恋ひてすべなみ |
3257S | 紀の国の浜に寄るとふあわび玉拾ひにと言ひて行きし君いつ来まさむ |
3258 | あらたまの年は来ゆきて玉梓の使の来ねば霞立つ長き春日を天地に思ひ足らはしたらちねの母が飼ふ蚕の繭隠り息づきわたり我が恋ふる心のうちを人に言ふものにしあらねば松が根の待つこと遠み天伝ふ日の暮れぬれば白栲の我が衣手も通りて濡れぬ |
3259 | かくのみし相思はずあらば天雲の外にぞ君はあるべくありける |
3260 | 小治田の年魚道の水を間なくぞ人は汲むといふ時じくぞ人は飲むといふ汲む人の間なきがごと飲む人の時じきがごと我妹子に我が恋ふらくはやむ時もなし |
3261 | 思ひ遣るすべのたづきも今はなし君に逢はずて年の経ぬれば |
3261S | 妹に会わず |
3262 | 瑞垣の久しき時ゆ恋すれば我が帯緩ふ朝宵ごとに |
3263 | こもりくの泊瀬の川の上つ瀬に斎杭を打ち下つ瀬に真杭を打ち斎杭には鏡を懸け真杭には真玉を懸け真玉なす我が思ふ妹も鏡なす我が思ふ妹もありといはばこそ国にも家にも行かめ誰がゆゑか行かむ |
3264 | 年渡るまでにも人はありといふをいつの間にぞも我が恋ひにける |
3265 | 世の中を憂しと思ひて家出せし我れや何にか還りてならむ |
3266 | 春されば花咲ををり秋づけば丹のほにもみつ味酒を神奈備山の帯にせる明日香の川の早き瀬に生ふる玉藻のうち靡き心は寄りて朝露の消なば消ぬべく恋ひしくもしるくも逢へる隠り妻かも |
3267 | 明日香川瀬々の玉藻のうち靡き心は妹に寄りにけるかも |
3268 | みもろの神奈備山ゆとの曇り雨は降り来ぬ天霧らひ風さへ吹きぬ大口の真神の原ゆ思ひつつ帰りにし人家に至りきや |
3269 | 帰りにし人を思ふとぬばたまのその夜は我れも寐も寝かねてき |
3270 | さし焼かむ小屋の醜屋にかき棄てむ破れ薦を敷きて打ち折らむ醜の醜手をさし交へて寝らむ君ゆゑあかねさす昼はしみらにぬばたまの夜はすがらにこの床のひしと鳴るまで嘆きつるかも |
3271 | 我が心焼くも我れなりはしきやし君に恋ふるも我が心から |
3272 | うちはへて思ひし小野は遠からぬその里人の標結ふと聞きてし日より立てらくのたづきも知らず居らくの奥処も知らずにきびにし我が家すらを草枕旅寝のごとく思ふそら苦しきものを嘆くそら過ぐしえぬものを天雲のゆくらゆくらに葦垣の思ひ乱れて乱れ麻のをけをなみと我が恋ふる千重の一重も人知れずもとなや恋ひむ息の緒にして |
3273 | 二つなき恋をしすれば常の帯を三重結ぶべく我が身はなりぬ |
3274 | 為むすべのたづきを知らに岩が根のこごしき道を岩床の根延へる門を朝には出で居て嘆き夕には入り居て偲ひ白栲の我が衣手を折り返しひとりし寝ればぬばたまの黒髪敷きて人の寝る味寐は寝ずて大船のゆくらゆくらに思ひつつ我が寝る夜らを数みもあへむかも |
3275 | ひとり寝る夜を数へむと思へども恋の繁きに心どもなし |
3276 | 百足らず山田の道を波雲の愛し妻と語らはず別れし来れば早川の行きも知らず衣手の帰りも知らず馬じもの立ちてつまづき為むすべのたづきを知らにもののふの八十の心を天地に思ひ足らはし魂合はば君来ますやと我が嘆く八尺の嘆き玉桙の道来る人の立ち留まりいかにと問はば答へ遣るたづきを知らにさ丹つらふ君が名言はば色に出でて人知りぬべみあしひきの山より出づる月待つと人には言ひて君待つ我れを |
3277 | 寐も寝ずに我が思ふ君はいづくへに今夜誰れとか待てど来まさぬ |
3278 | 赤駒を馬屋に立て黒駒を馬屋に立ててそを飼ひ我が行くがごと思ひ妻心に乗りて高山の嶺のたをりに射目立てて鹿猪待つがごと床敷きて我が待つ君を犬な吠えそね |
3279 | 葦垣の末かき分けて君越ゆと人にな告げそ事はたな知れ |
3280 | 我が背子は待てど来まさず天の原振り放け見ればぬばたまの夜も更けにけりさ夜更けてあらしの吹けば立ち待てる我が衣手に降る雪は凍りわたりぬ今さらに君来まさめやさな葛後も逢はむと慰むる心を持ちてま袖もち床うち掃ひうつつには君には逢はず夢にだに逢ふと見えこそ天の足り夜を |
3281 | 我が背子は待てど来まさず雁が音も響みて寒しぬばたまの夜も更けにけりさ夜更くとあらしの吹けば立ち待つに我が衣手に置く霜も氷にさえわたり降る雪も凍りわたりぬ今さらに君来まさめやさな葛後も逢はむと大船の思ひ頼めどうつつには君には逢はず夢にだに逢ふと見えこそ天の足り夜に |
3282 | 衣手にあらしの吹きて寒き夜を君来まさずはひとりかも寝む |
3283 | 今さらに恋ふとも君に逢はめやも寝る夜をおちず夢に見えこそ |
3284 | 菅の根のねもころごろに我が思へる妹によりては言の忌みもなくありこそと斎瓮を斎ひ掘り据ゑ竹玉を間なく貫き垂れ天地の神をぞ我が祷むいたもすべなみ |
3285 | たらちねの母にも言はずつつめりし心はよしゑ君がまにまに |
3286 | 玉たすき懸けぬ時なく我が思へる君によりてはしつ幣を手に取り持ちて竹玉を繁に貫き垂れ天地の神をぞ我が祷むいたもすべなみ |
3287 | 天地の神を祈りて我が恋ふる君いかならず逢はずあらめやも |
3288 | 大船の思ひ頼みてさな葛いや遠長く我が思へる君によりては言の故もなくありこそと木綿たすき肩に取り懸け斎瓮を斎ひ掘り据ゑ天地の神にぞ我が祷むいたもすべなみ |
3289 | み佩かしを剣の池の蓮葉に溜まれる水のゆくへなみ我がする時に逢ふべしと逢ひたる君をな寐ねそと母聞こせども我が心清隅の池の池の底我れは忘れじ直に逢ふまでに |
3290 | いにしへの神の時より逢ひけらし今の心も常忘らえず |
3291 | み吉野の真木立つ山に青く生ふる山菅の根のねもころに我が思ふ君は大君の任けのまにまに或本云大君の命かしこみ鄙離る国治めにと或本云天離る鄙治めにと群鳥の朝立ち去なば後れたる我れか恋ひむな旅ならば君か偲はむ言はむすべ為むすべ知らに或書有あしひきの山の木末に句也延ふ蔦の行きの或本無歸之句也別れのあまた惜しきものかも |
3292 | うつせみの命を長くありこそと留まれる我れは斎ひて待たむ |
3293 | み吉野の御金が岳に間なくぞ雨は降るといふ時じくぞ雪は降るといふその雨の間なきがごとその雪の時じきがごと間もおちず我れはぞ恋ふる妹が直香に |
3294 | み雪降る吉野の岳に居る雲の外に見し子に恋ひわたるかも |
3295 | うちひさつ三宅の原ゆ直土に足踏み貫き夏草を腰になづみいかなるや人の子ゆゑぞ通はすも我子うべなうべな母は知らじうべなうべな父は知らじ蜷の腸か黒き髪に真木綿もちあざさ結ひ垂れ大和の黄楊の小櫛を押へ刺すうらぐはし子それぞ我が妻 |
3296 | 父母に知らせぬ子ゆゑ三宅道の夏野の草をなづみ来るかも |
3297 | 玉たすき懸けぬ時なく我が思ふ妹にし逢はねばあかねさす昼はしみらにぬばたまの夜はすがらに寐も寝ずに妹に恋ふるに生けるすべなし |
3298 | よしゑやし死なむよ我妹生けりともかくのみこそ我が恋ひわたりなめ |
3299 | 見わたしに妹らは立たしこの方に我れは立ちて思ふそら安けなくに嘆くそら安けなくにさ丹塗りの小舟もがも玉巻きの小楫もがも漕ぎ渡りつつも語らふ妻を |
3299S | こもりくの泊瀬の川の彼方に妹らは立たしこの方に我れは立ちて |
3300 | おしてる難波の崎に引き泝る赤のそほ舟そほ舟に網取り懸け引こづらひありなみすれど言ひづらひありなみすれどありなみえずぞ言はえにし我が身 |
3301 | 神風の伊勢の海の朝なぎに来寄る深海松夕なぎに来寄る俣海松深海松の深めし我れを俣海松のまた行き帰り妻と言はじとかも思ほせる君 |
3302 | 紀の国の牟婁の江の辺に千年に障ることなく万代にかくしもあらむと大船の思ひ頼みて出立の清き渚に朝なぎに来寄る深海松夕なぎに来寄る縄海苔深海松の深めし子らを縄海苔の引けば絶ゆとや里人の行きの集ひに泣く子なす行き取り探り梓弓弓腹振り起ししのぎ羽を二つ手挟み放ちけむ人し悔しも恋ふらく思へば |
3303 | 里人の我れに告ぐらく汝が恋ふるうつくし夫は黄葉の散り乱ひたる神なびのこの山辺から或本云その山辺ぬばたまの黒馬に乗りて川の瀬を七瀬渡りてうらぶれて夫は逢ひきと人ぞ告げつる |
3304 | 聞かずして黙もあらましを何しかも君が直香を人の告げつる |
3305 | 物思はず道行く行くも青山を振り放け見ればつつじ花にほえ娘子桜花栄え娘子汝れをぞも我れに寄すといふ我れをもぞ汝れに寄すといふ荒山も人し寄すれば寄そるとぞいふ汝が心ゆめ |
3306 | いかにして恋やむものぞ天地の神を祈れど我れは思ひ増す |
3307 | しかれこそ年の八年を切り髪のよち子を過ぎ橘のほつ枝を過ぎてこの川の下にも長く汝が心待て |
3308 | 天地の神をも我れは祈りてき恋といふものはかつてやまずけり |
3309 | 物思はず道行く行くも青山を振り放け見ればつつじ花にほえ娘子桜花栄え娘子汝れをぞも我れに寄すといふ我れをぞも汝れに寄すといふ汝はいかに思ふや思へこそ年の八年を切り髪のよち子を過ぎ橘のほつ枝をすぐりこの川の下にも長く汝が心待て |
3310 | 隠口の泊瀬の国にさよばひに我が来ればたな曇り雪は降り来さ曇り雨は降り来野つ鳥雉は響む家つ鳥鶏も鳴くさ夜は明けこの夜は明けぬ入りてかつ寝むこの戸開かせ |
3311 | 隠口の泊瀬小国に妻しあれば石は踏めどもなほし来にけり |
3312 | 隠口の泊瀬小国によばひせす我が天皇よ奥床に母は寐ねたり外床に父は寐ねたり起き立たば母知りぬべし出でて行かば父知りぬべしぬばたまの夜は明けゆきぬここだくも思ふごとならぬ隠り妻かも |
3313 | 川の瀬の石踏み渡りぬばたまの黒馬来る夜は常にあらぬかも |
3314 | つぎねふ山背道を人夫の馬より行くに己夫し徒歩より行けば見るごとに音のみし泣かゆそこ思ふに心し痛したらちねの母が形見と我が持てるまそみ鏡に蜻蛉領巾負ひ並め持ちて馬買へ我が背 |
3315 | 泉川渡り瀬深み我が背子が旅行き衣ひづちなむかも |
3316 | まそ鏡持てれど我れは験なし君が徒歩よりなづみ行く見れば |
3317 | 馬買はば妹徒歩ならむよしゑやし石は踏むとも我はふたり行かむ |
3318 | 紀の国の浜に寄るといふ鰒玉拾はむと言ひて妹の山背の山越えて行きし君いつ来まさむと玉桙の道に出で立ち夕占を我が問ひしかば夕占の我れに告らく我妹子や汝が待つ君は沖つ波来寄る白玉辺つ波の寄する白玉求むとぞ君が来まさぬ拾ふとぞ君は来まさぬ久ならばいま七日ばかり早くあらばいま二日ばかりあらむとぞ君は聞こししな恋ひそ我妹 |
3319 | 杖つきもつかずも我れは行かめども君が来まさむ道の知らなく |
3320 | 直に行かずこゆ巨勢道から石瀬踏み求めぞ我が来し恋ひてすべなみ |
3321 | さ夜更けて今は明けぬと戸を開けて紀へ行く君をいつとか待たむ |
3322 | 門に居る我が背は宇智に至るともいたくし恋ひば今帰り来む |
3323 | しなたつ筑摩さのかた息長の越智の小菅編まなくにい刈り持ち来敷かなくにい刈り持ち来て置きて我れを偲はす息長の越智の小菅 |
3324 | かけまくもあやに畏し藤原の都しみみに人はしも満ちてあれども君はしも多くいませど行き向ふ年の緒長く仕へ来し君の御門を天のごと仰ぎて見つつ畏けど思ひ頼みていつしかも日足らしまして望月の満しけむと我が思へる皇子の命は春されば植槻が上の遠つ人松の下道ゆ登らして国見遊ばし九月のしぐれの秋は大殿の砌しみみに露負ひて靡ける萩を玉たすき懸けて偲はしみ雪降る冬の朝は刺し柳根張り梓を大御手に取らし賜ひて遊ばしし我が大君を霞立つ春の日暮らしまそ鏡見れど飽かねば万代にかくしもがもと大船の頼める時に泣く我れ目かも迷へる大殿を振り放け見れば白栲に飾りまつりてうちひさす宮の舎人も一云は栲のほの麻衣着れば夢かもうつつかもと曇り夜の迷へる間にあさもよし城上の道ゆつのさはふ磐余を見つつ神葬り葬りまつれば行く道のたづきを知らに思へども験をなみ嘆けども奥処をなみ大御袖行き触れし松を言問はぬ木にはありともあらたまの立つ月ごとに天の原振り放け見つつ玉たすき懸けて偲はな畏くあれども |
3325 | つのさはふ磐余の山に白栲にかかれる雲は大君にかも |
3326 | 礒城島の大和の国にいかさまに思ほしめせかつれもなき城上の宮に大殿を仕へまつりて殿隠り隠りいませば朝には召して使ひ夕には召して使ひ使はしし舎人の子らは行く鳥の群がりて待ちあり待てど召したまはねば剣大刀磨ぎし心を天雲に思ひはぶらし臥いまろびひづち哭けども飽き足らぬかも |
3327 | 百小竹の三野の王西の馬屋に立てて飼ふ駒東の馬屋に立てて飼ふ駒草こそば取りて飼ふと言へ水こそば汲みて飼ふと言へ何しかも葦毛の馬のいなき立てつる |
3328 | 衣手葦毛の馬のいなく声心あれかも常ゆ異に鳴く |
3329 | 白雲のたなびく国の青雲の向伏す国の天雲の下なる人は我のみかも君に恋ふらむ我のみかも君に恋ふれば天地に言を満てて恋ふれかも胸の病みたる思へかも心の痛き我が恋ぞ日に異にまさるいつはしも恋ひぬ時とはあらねどもこの九月を我が背子が偲ひにせよと千代にも偲ひわたれと万代に語り継がへと始めてしこの九月の過ぎまくをいたもすべなみあらたまの月の変れば為むすべのたどきを知らに岩が根のこごしき道の岩床の根延へる門に朝には出で居て嘆き夕には入り居恋ひつつぬばたまの黒髪敷きて人の寝る味寐は寝ずに大船のゆくらゆくらに思ひつつ我が寝る夜らは数みもあへぬかも |
3330 | 隠口の泊瀬の川の上つ瀬に鵜を八つ潜け下つ瀬に鵜を八つ潜け上つ瀬の鮎を食はしめ下つ瀬の鮎を食はしめくはし妹に鮎を惜しみくはし妹に鮎を惜しみ投ぐるさの遠ざかり居て思ふそら安けなくに嘆くそら安けなくに衣こそばそれ破れぬれば継ぎつつもまたも合ふといへ玉こそば緒の絶えぬればくくりつつまたも合ふといへまたも逢はぬものは妻にしありけり |
3331 | 隠口の泊瀬の山青旗の忍坂の山は走出のよろしき山の出立のくはしき山ぞあたらしき山の荒れまく惜しも |
3332 | 高山と海とこそば山ながらかくもうつしく海ながらしかまことならめ人は花ものぞうつせみ世人 |
3333 | 大君の命畏み蜻蛉島大和を過ぎて大伴の御津の浜辺ゆ大船に真楫しじ貫き朝なぎに水手の声しつつ夕なぎに楫の音しつつ行きし君いつ来まさむと占置きて斎ひわたるにたはことか人の言ひつる我が心筑紫の山の黄葉の散りて過ぎぬと君が直香を |
3334 | たはことか人の言ひつる玉の緒の長くと君は言ひてしものを |
3335 | 玉桙の道行く人はあしひきの山行き野行きにはたづみ川行き渡り鯨魚取り海道に出でて畏きや神の渡りは吹く風ものどには吹かず立つ波もおほには立たずとゐ波の塞ふる道を誰が心いたはしとかも直渡りけむ直渡りけむ |
3336 | 鳥が音の聞こゆる海に高山を隔てになして沖つ藻を枕になしひむし羽の衣だに着ずに鯨魚取り海の浜辺にうらもなく臥やせる人は母父に愛子にかあらむ若草の妻かありけむ思ほしき言伝てむやと家問へば家をも告らず名を問へど名だにも告らず泣く子なす言だにとはず思へども悲しきものは世間にぞある世間にぞある |
3337 | 母父も妻も子どもも高々に来むと待ちけむ人の悲しさ |
3338 | あしひきの山道は行かむ風吹けば波の塞ふる海道は行かじ |
3339 | 玉桙の道に出で立ちあしひきの野行き山行きにはたづみ川行き渡り鯨魚取り海道に出でて吹く風もおほには吹かず立つ波ものどには立たぬ畏きや神の渡りのしき波の寄する浜辺に高山を隔てに置きて浦ぶちを枕に巻きてうらもなくこやせる君は母父が愛子にもあらむ若草の妻もあらむと家問へど家道も言はず名を問へど名だにも告らず誰が言をいたはしとかもとゐ波の畏き海を直渡りけむ |
3340 | 母父も妻も子どもも高々に来むと待つらむ人の悲しさ |
3341 | 家人の待つらむものをつれもなき荒礒を巻きて寝せる君かも |
3342 | 浦ぶちにこやせる君を今日今日と来むと待つらむ妻し悲しも |
3343 | 浦波の来寄する浜につれもなくこやせる君が家道知らずも |
3344 | この月は君来まさむと大船の思ひ頼みていつしかと我が待ち居れば黄葉の過ぎてい行くと玉梓の使の言へば蛍なすほのかに聞きて大地をほのほと踏みて立ちて居てゆくへも知らず朝霧の思ひ迷ひて杖足らず八尺の嘆き嘆けども験をなみといづくにか君がまさむと天雲の行きのまにまに射ゆ鹿猪の行きも死なむと思へども道の知らねばひとり居て君に恋ふるに哭のみし泣かゆ |
3345 | 葦辺行く雁の翼を見るごとに君が帯ばしし投矢し思ほゆ |
3346 | 見欲しきは雲居に見ゆるうるはしき鳥羽の松原童どもいざわ出で見むこと放けば国に放けなむこと放けば家に放けなむ天地の神し恨めし草枕この旅の日に妻放くべしや |
3347 | 草枕この旅の日に妻離り家道思ふに生けるすべなし |
3347S | 旅の日にして |